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横浜地方裁判所 平成5年(ワ)1316号 判決 1993年7月13日

横浜市旭区柏町五八番地の一

原告

河野禮通

(就業場所)横浜市保土ヶ谷区帷子町二丁目六四番地

保土ヶ谷税務署

被告

神田庄二

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一〇九五万円及びこれに対する平成二年三月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、平成二年九月、一一年間居住の用に供していたその所有の不動産を売却し、同年一二月中に代金の授受及び登記を了した。次いで、平成三年三月一二日、保土ヶ谷税務署長に対し、右売却に係る譲渡所得について、租税特別措置法による三〇〇〇万円の特別控除をして、平成二年分の所得税の確定申告をした。

2  原告は、右売却及び申告に先立ち、保土ヶ谷税務署担当官から右特別控除が受けられる旨の説明を受けており、そのため、右のとおり売却及び申告をしたものである。

3  しかるに、その後、保土ヶ谷税務署長である被告は、原告の平成二年分及び平成三年分の所得税の税務調査をし、右不動産取引は平成三年にされたものであり、右三〇〇〇万円の特別控除を認めないこととして、原告の平成二年分の所得税の減額更正処分をし、その際、同処分について不服申立てができる旨の教示をすべき義務があるにもかかわらず、これを行わなかった。

4  原告は、被告の右違法な行為により、異議申立てをすることができなかったことなどにより、一〇〇〇万円の実質的な不利益を被り、かつ、精神的苦痛を受けたところ、その慰謝料は九五万円が相当である。

5  よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づき右損害賠償金一〇九五万円及びこれに対する平成二年三月一五日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因1は、原告が昭和五四年一二月以降その所有の不動産を居住の用に供していたこと、原告がその主張の確定申告をしたことは認めるが、その余は争う。

2  請求原因2は、原告が申告相談をしたことは認めるが、その余は争う。

3  請求原因3は、教示すべき義務があることは争い、その余の事実は認める。

4  請求原因4は争う。

三  被告の主張

原告の本訴請求は、国の公権力の行使に当たる公務員である被告が税務署長の職務として行った処分に関し、その公務員個人の責任を追求するものであるところ、このように公権力の行使に当たる国の公務員がその職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合においても、公務員個人は損害賠償責任を負わないものであるから、主張自体理由がない。

理由

一  原告の本訴請求は、被告の税務署長としての職務上の違法な行為により損害を被ったとして公務員個人としての被告に対して損害賠償を求めるものであるところ、公権力の行使に当たる国の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国が被害者に対して賠償の責に任ずるのであって、公務員個人はその責を負わないものと解するのが相当である。

二  よって、原告の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 根本眞 裁判官 杉山正己 裁判官 河村俊哉)

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